13 地下室に転がるは謎の日記

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13 地下室に転がるは謎の日記

 森の散策を終えて、ガラスドームに帰り着いたのは夕刻だった。夕暮れの紅いひかりが、ノヴァ・ゼナリャの空を覆う。その光景は地球によく似てはいたが、ニーアの置かれた境遇を知れば知るほどに、ゲイリーの目にはどこか禍々しく映る。  夕闇迫る空の下で、ゲイリーはその日、ニーアに抱きかかえられ、空高くから見たノヴァ・ゼナリャの大地の光景を改めて思い出す。  ……森を囲み、地の果てまで連なる、生きるもの全てを拒絶するような赤茶けた砂丘。ここ、ノヴァ・ゼナリャが、多くの人間を養うには適しないと開拓途中で放棄された星だということを、改めて認識させるような光景であった。  そんな星にひとり、数百年と残されたニーア。彼女は「自分に森を残してくれた」という。だが、ゲイリーからすれば、ニーアの「愛した人」とやらは、彼女をこの森に「閉じ込めた」としか感じられないのが本音である。  ……ニーア、君はまるで罪人のようじゃないか。どんな事情があろうと、何百年もの間、たったひとりで、この星に、この森に囚われているなんて。  ゲイリーはガラスドームへの帰途の間、ニーアの背に向かって何度もそう呼びかけようとして、躊躇い、そして、結局のところそれを断念し口をつぐんだ。それは、自分が投げかけようとしている言葉が、ニーアにとっては、とてつもなく残酷この上ない現実であるとしたら、彼女をどれだけ傷つけてしまうだろう、という恐れからであった。また、それに加えて、自分がこの惑星ノヴァ・ゼナリャに、ひいてはニーアに、これ以上深入りしてしまうことに対する怖さもあった。
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