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「ゲイリー、早くなかに入らないと、冷えるわよ」
……ゲイリーはガラスドームの入り口から呼びかけるニーアの声に、我に返った。彼は頭を振り、めくるめく連鎖する思考を断ち切ろうとした。だがそうしても、もやもやとした思念は、ゲイリーの胸をいまだ覆って止まない。
「……ちょっと地下室に行ってくる」
「なあに、またお酒? ほどほどになさいよ、ゲイリー」
「ああ」
彼はそれだけ言うと、ニーアに背を向け、地下室への途をたどる。酒が飲みたかったのもあるが、ひとまずは、ゲイリーはひとりになりたかったのだ。
ゲイリーはひとり冷たい地下室の床のうえに転がっていた。いつものように、手近のあった真空パックに手を伸ばしてみたものの、今夜はあまり酒が進まなかった。
……俺にしては珍しいことだな、とゲイリーは苦笑する。酒以上に考えることがあるというのは、一体、何年ぶりのことだろうか。ゲイリーは考える。この星に不時着してからの、あれこれを。そして自分のこれからの、身の振り方をも。
……いったい、ニーアにどれだけ自分は関わって良いのか、そして自分はこの先どうすればよいのか。彼女が望むべく、ここの書架の番人として生を送る覚悟はまだつかない。だが、戻れる場所もないのが、今の彼の実情でもある。
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