14 取引という名の裏切り

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14 取引という名の裏切り

 地下室で謎の日記を見つけてから数日、ゲイリーは些かぼんやりとした心持ちでニーアと過ごした。  ニーアにはあの日記のことは告げなかった。告げてはいけないような気がしたのだ。また、同時に、地下室にもう一度行って、帳面をもう一回読み返す勇気もゲイリーには持てなかった。  だが、変わらず微笑みを浮かべて書架の中に立ち、朗読をし、そして書架の説明を楽しげに続けるニーアの無邪気な顔を見ていると、あれはなにかの悪い冗談だったのではないかという気もしてくる。ゲイリーは密かに混乱していた。  なので、その日、ゲイリーは、気分転換に森を一人歩きしてくることに決め、その旨をニーアに告げた。 「いいんじゃない、たまには。それに、この森に早く慣れるのはいいことかもね」  ニーアはそう言い、ガラスドームからゲイリーを見送った。ゲイリーはほっ、として、森へと足を向ける。振り返ってみれば、ニーアがガラスドームの中でひらひらと手を振って居るのが見える。ゲイリーも大げさに大きく手を振ってみせる。すると、ニーアが吹き出すのが遠目に見えた。  ……陽のひかりと、生暖かい風に揺れる森を歩くうち、ゲイリーの心は、確かに軽くなりつつあった。そのうち、ふとゲイリーは、この森に不時着した、自分の乗ってきた宇宙船(シップ)はどうなっているか、と考えた。思えば、救難信号はいまも発信されたたままなのだろうか。  ……ちょっと様子を見に行ってみるか。  ゲイリーは軽い気持ちで、足を宇宙船が停泊している方向に向けた。  そう、そのときは、軽い気持ちで。
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