14 取引という名の裏切り

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 宇宙船は、鬱蒼とした森の木々をなぎ倒きつつ、森のなか、ぽっかり空いた空間に悠然と鎮座していた。  ゲイリーが脱出時に開いたハッチは開きっぱなしであったので、そこから再び身を潜らせ、彼は宇宙船の中に滑りこんだ。  宇宙船の内部、ことに廊下には、物品が散乱しており、ゲイリー以外の乗客と乗員が脱出したときの慌ただしい様子を伺い知ることが出来る。ゲイリーはそれを踏みつけながら、ゆっくりと船の最深部に侵入していった。  ノヴァ・ゼナリャの生暖かい風に替わり、船に沈殿していた冷たく重い空気がゲイリーの身を包んでいく。陽のひかりはすでに届かず、彼は慎重に闇に沈んだ廊下の壁面を指で探りながら、歩いていった。もっとも航海士としての経験から、ゲイリーの頭はどんな型の宇宙船でもその構造は把握していたから、暗闇のなかでも彼は楽に歩くことができる。  そして、闇の中を歩き出してからほどなくして、ゲイリーの耳は微かな通信音を捉えた。小さな音であったが、ピ・ピピという微かな音とそれに混じった雑音が、宇宙船の一室から漏れ出していた。救難信号の音とはまた違う。ゲイリーは足を止め、その音が発せられている場所が何処かに意識を集中させる。  ……間もなく、ゲイリーの耳は、その音の大元を突き止めた。 「通信室か……」  ゲイリーはそう独りごちると、迷わず、足をその音が漏れ聞こえる方向に身を翻し、再び暗闇の中を歩き始めた。
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