14 取引という名の裏切り

5/6
前へ
/119ページ
次へ
 そのゲイリーの言を聞くと、リェムは一瞬顔を和らげ、なるほど、といった表情になった。だが、それも数秒のことで、リェムはここぞとばかりに、静かに、だが威圧を持って声を放る。 「サンダース。君の身柄は既に把握している。君は重度のアルコール依存症で、サナトリウムに送られる途中に遭難してノヴァ・ゼナリャに辿りついたことも、それから、エリート航海士だった君の過去も」 「……だからなんだと言うんだ」  ゲイリーは、急に話題が自らのことに及んだのが意外で、反射的にリェムを睨み付ける。するとリェムはこう問うた。 「君は過去の栄光を取り戻したいとは思わないかね」 「どういう意味だ……?」 「そのままの意味だよ、サンダース。要は、君が我々が欲する情報を提供してくれれば、君の過去の罪状は不問にし、航海士として名誉回復してもよい。またサナトリウム送りも取り消そう。つまり、私は君と取引をしたいのだよ」  そこで漸くゲイリーはリェムの真意を理解した。次いで、自分に通信を送ってきたその理由も。  ゲイリーの目が怪しく光った。 「……俺にニーアを裏切れと?」 「ニーアというのか、あのアンドロイドは。それは良い名前だ……それはともかく、裏切る、というと聞こえが悪いが、つまりはこれは、取引条件を整えたうえでの情報提供の要請に過ぎんよ、サンダース。だが、なかなか良い条件とは思わんかね」 「……俺がニーアについて知っていることなんぞ、たいしたことじゃねえぞ。……それでもいいのか?」 「その気になったか。サンダース。なら、取引成立だな。なら、そのニーアとやらについて知っていることを話してくれ」
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加