14 取引という名の裏切り

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 ……ゲイリーは沈黙した。しばらく、画面から漏れる電磁波によるノイズが通信室には響くのみであった。だが、数分後、結局、彼は口を開いた。そして、吐き出すようにリェムに向かって、一気に語を放った。 「彼女は500年前に地球を出立したした「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」の生き残りだ。名前は、ニーア・アンダーソン。元人間のアンドロイドだと聞いている。かなり旧式のアンドロイドだな……エネルギー源は蓄電式のバッテリーだと言っていたからな」 「……なるほどな。その他に彼女について知っていることは?」 「俺が知っているのはそのくらいだ……」  ゲイリーは口を閉じた。それを見て、満足気にリェムが頷く。 「よし、ご苦労だった、サンダース。そのうち君を迎えに行く。それまで大人しくノヴァ・ゼナリャで待っていてくれ。約束は守るから、安心しているように……!」  ……そこで映像と音声は途切れた。突然始まったリェム少佐との通信は、終わりも唐突だった。  ゲイリーは暫く、暗く沈んだモニターを、ただじっと見つめるのみだった。そのモニターの同じ色の、なにか鉛のように重い塊が彼の胸に沈んでいる。彼はそれが、ニーアを裏切ってしまったことの後ろめたさであると意識はしていた。今更のように、彼女への罪悪感が喉元をせり上がってくる。 「……だが、もう遅い!」  彼は、自らの逡巡に蹴りを付けるように、乱暴な口調で叫ぶ。  ……無人の船の中にゲイリーの怒号が木霊する。彼自身に向けた怒りの声が。  再びの暗闇の中、いまだ点滅を続ける赤いランプの光が、眉間に皺を寄せるゲイリーの横顔を、忙しく照らしていた。
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