15 焔のなかに消ゆ

2/6
前へ
/119ページ
次へ
 ……その夜、ゲイリーは自室のベッドの上で、まんじりともせず過ごした。  昼間の、宇宙船の中での交信のことを思い返しては、寝返りを打ち、自らの裏切りについて考えた。  ……俺がやったことは情報提供に過ぎない。だが、名誉回復の条件を提示されたうえで提供したとしたら、それはやはり、ニーアへの裏切りということになるのだろう。  ……だが、たいしたことは言っていない、ごく一般的なことしか、俺は言っていない……だから、あれは裏切りじゃない……だが、だが……。  彼は寝転びながら頭を振る。目を瞑れば、交互に、ニーアの顔、そしてあの地球軍の若手将校の顔が脳裏に浮かぶ。  ……俺は、ほんとうに、しょうがねぇ奴だな……。  そう頭の中で反芻しながら、うつら、うつらとしかけた明け方、ゲイリーの耳に響いたのは宇宙船の轟音だった。しかも、前とは比べものにならないくらい大きい駆動音は……おそらくは、軍艦の。 「……来たのか……」  独りごちたゲイリーが身を起こしたそのときだ、天窓が眩しいひかりと音に激しく揺れた。おそらくは、レーザー砲が森のどこかに命中したのだろう。ゲイリーは、揺れる建物のなかで頭を庇いつつ蹲った。 「初っ端から派手にやりやがる……あのリェム少佐とやらの仕業か?」  暫くの後、揺れが収まると同時に、彼は建物の外に飛び出した。時刻は明け方、ノヴァ・ゼナリャの空は曙色に染まっている。そのなかをゆっくりと、一機の軍艦がレーザー砲を発しながら、徐々にガラスドームに接近するのを、ゲイリーは声もなく見つめた。  そして、ゲイリーは息をのむ。  ガラスドームの天頂で、軍艦を迎え撃つべく、漆黒の戦闘着(スーツ)姿で屹立するニーアが目に飛び込んできたのだ。 「ニーア!」  ……ゲイリーは思わず彼女の名を叫んだ。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加