16 自業自得と言われりゃそうだが、失意の帰還

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 数時間後、ゲイリーはボストン郊外の古びた一軒家に辿り着いていた。久しぶりの我が家はどことなく煤けていたが、それでも、ゲイリーには懐かしい、妻と暮らした愛しい生活の空間であった。だが、何度チャイムを押しても、人の出てくる様子はない。ゲイリーは家の電子錠(ロック)に、知りうる限りの暗証番号(パス・ワード)を入力してドアを開こうとしたが、それも無駄な試みに終わった。家の窓はどこもかたくなにブラインドが下ろされていて、中を伺い知ることも出来ない。  ゲイリーは途方に暮れて、庭の縁石にぽつん、と腰掛けた。手入れの行き届いていない芝生が目につく。それを見て、ゲイリーは認めたくなかった事実を認識せざるを得なかった。  ……妻のサリーは、もう、ここには居ない。  麻薬密輸事件で収監されて以来、どれだけ手紙を出しても返事がなかったわけだ。いや、一通だけは帰ってきたのだった。「そんな事件に関わるなんて、呆れた。もう家には帰ってこないで」とサリーの乱れた筆跡で書かれた、住所の記されていない手紙。釈放後もゲイリーはニューヨークの監視付のアパートメントでひとり暮らすことをを余儀なくされ、そのうち酒に溺れていったわけだが、それでも、ずっとこのボストンの家で暮らしているはずのサリーに向けて、手紙を出すことは止めなかった。  だが、結局、サリーはもう随分とまえに、この家を去っていたのだろう。ゲイリーの胸に、虚しさが満ちる。  わかっていたはずだった。だが、実際直面してみると、こんなにも、堪えるものとは。
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