2 不時着するは緑の森

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 周囲を見渡せば、そこは、窓から見たとおりの、鬱蒼とした森のなかであった。ただ、宇宙船が不時着したさいに、だいぶんその広い範囲の木々をなぎ倒してしまったらしく、そこはまるで、急ごしらえの広場のような、不自然にぽっかりと空いた空間になってはいたが。  ……ここは、どこであろうか。ゲイリーの脳内では船乗り時代の広範な宇宙の知識が知らず知らずのうちに展開していたが、そもそもここがどの星域に当たるか分からない時点で、探り当てようがない。地球とよく似た植生の惑星であるようだから、そのタイプの知りうるあらゆる星を反芻してみたが、ここがそのどこにあたるかという決定打も今のところ見いだせない。  異星の風が、ざわっ、と木々を揺らし、足下の草を、ゲイリーの黒い髪をなびかせる。生暖かいその風は、ゲイリーの地球への郷愁を一瞬掻き立てた。だが、次に感じたのは、酒が飲みたい、という欲求だった。ゲイリーは苦笑した。ここまで来ても、俺はまだ、酒に溺れたいのか……。そう自嘲するゲイリーの額を、頭部の傷から吹きだした血がたらりと垂れる。再び頭の傷が激しく疼き出した。  …・…どうやら、塞がっていた傷が、歩き回った衝動で開きやがったな……。  そう自覚する間もなく、ゲイリーはその傷の痛みから、思わず異星の草の上に蹲った。そしてそのまま、地表に彼の身体はどさり、と横転する。    ……いいぞ、と彼は再び遠ざかる意識の中で思った。……このまま失血死しちまえば、全て、問題なしだ。船乗りとしてはこんな名も知れぬ惑星の上ではなく、宇宙空間で死を迎えたかったところではあるが、文句は言うまい。そうこうしているうちに、ゲイリーの意識は混濁していく。やがて瞼が重くなって、自然と目が閉じていく。  ……いいぞ、いいぞ。これでおさらばだ。
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