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17 俺が何したっていうんだ
ニューヨークのアパートメントに、その日は帰るのを諦めたゲイリーは、ボストン市内に戻り、安宿を探すことにした。
タクシーにもバスにも乗る気にならず、ゲイリーはとぼとぼと、郊外から市内へと続く道路を辿る。殆ど人気の無い夜道は、なんとも寂しい風景だったが、その日のゲイリーの心持ちには、それがかえって救いになった。
彼は道を歩きながら、落胆に沈む心中をなんとか慰めようと試みる。だが、妻がとっくに彼のことを見捨て去っていた事実は、ぽっかりと彼の心に風穴を穿ち、そこには冷たく黒い風が絶え間なく吹きすさんでいるのだ。
……サリー、こんな俺を見捨てたのは分かる。だが、だが、再婚とは、どういうことだ。俺とお前は、まだ法律上でも夫婦の筈だぞ……。
彼は去って行った妻の面影を追うように、ふらふらと夜の路傍をさまよい歩く。まるで、夢遊病者のようなのろのろとした足取りで。
それでもなんとかゲイリーは、日付が変わる前には、郊外から市街地に差し掛かかるエリアに辿り着くことができた。高く上った月が、おぼろげにゲイリーの不確かな足取りを照らす。
その瞬間。
……銃撃は唐突だった。
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