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「……お前も苦労したんだな」
「まあな……」
数時間後、ゲイリーとスチュアートは、近くの薄汚れたバーの片隅でウイスキーを酌み交わしていた。ゲイリーは、件の麻薬密輸事件の冤罪から、アルコール依存症になりサナトリウム行きの船に乗ったこと、そして惑星ノヴァ・ゼナリャに不時着し、先日軍の計らいで地球に帰ってきたこと……それらのことを詳しくスチュアートに語った。
もっとも、ノヴァ・ゼナリャでのニーアとの出逢いや生活は、リェム少佐に他言無用と言われたこともあり、その部分は割愛したが。
「しかしなぁ。サリーがなあ……」
スチュアートが深い溜息を吐きつつ、呟いた。スチュアートはゲイリーの古い航海士仲間である。ゲイリーの結婚式にも出席しており、サリーのこともよく知っている。
「新婚当時のお前の惚気話ったら、それはそれは、面倒くさいものだったがねぇ……」
「……うるせえ」
スチュアートの同情とも嫌みともつかない台詞に、ゲイリーはウイスキーを煽りながら悪態をついた。それを見てスチュアートが苦笑する。
「いや、それはともかく、お前の今の境遇には、流石に同情するよ」
「そりゃ、ありがとよ」
ゲイリーは投げやりに呟く。だが、久々に本音を語ることのできる人間との飲みは、今の彼には、心に染み入るものがあった。
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