12人が本棚に入れています
本棚に追加
「それにしても、だ、ゲイリー」
「なんだ?」
スチュアートはグラスから口を離すと、酒場の喧噪の中、その声を心持ち小さくして、ゲイリーに尋ねる。
「お前、さっき銃撃されたって言っていただろう? それになにか心当たりはあるのか?」
「……全くない……」
ゲイリーは囁いた。……いや、全くない、というのは、齟齬があった。ひとつ考えられるとしたら、軍の存在である。ノヴァ・ゼナリャでの出来事を口止めするために、ゲイリーを消しにかかった、という可能性はある。
だが、それをするなら、ゲイリーをこうして野に放す前に、軍艦のなかで謀殺してしまえば済む話ではあり、あの如何にも機知に富んでいそうなリェムがこんなまどろっこしい手を取るとはゲイリーには考えにくかった。
「そうか。……まあ、なんにせよ、気をつけろよ、ゲイリー。麻薬密輸事件の真相も、まだ分かっていないんだ。見えざる敵がお前を狙っているとしても、おかしくはない」
スチュアートは眉を顰めながら、ゲイリーの目をまっすぐ見て言った。ゲイリーはその忠告に、無言で頷くしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!