18 街角にて胸をよぎる君の面影

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18 街角にて胸をよぎる君の面影

 空が曙に染まる頃、ゲイリーはスチュアートと別れて、自分のアパートメントがあるニューヨークへと帰路につくことにした。  スチュアートは、一睡もしていないゲイリーを気遣って、近所にある自分の家で寝て行けよ、と言葉を掛けてくれたが、ゲイリーはそれを断った。航海士時代から仲間内では一番の色男だったスチュアートの家には、いまもきっと女の気配があるのではと推測し、遠慮したのである。  そのことをスチュアートに告げると、案の定、彼はそれに異議も唱えず、ただ、悪いな、と苦笑いしてゲイリーの肩を叩いた。そうして2人は夜が明けたばかりの街角で、別れることと相成った。  スチュアートと別れてから、ゲイリーはニューヨーク便の時間を調べたが、何せ一日は始まったばかりで、それにはだいぶん時間がある。  ……まあ、いい。急ぐ旅でもない。俺を待ってる奴なんぞ、いないしな。  そう心の中で独りごちると、ゲイリーは自分が長らく暮らしたボストンの街を、ぐるりと一周してから帰ることに決めた。どこかしこに、サリーとの生活の痕跡が見え隠れするこの街の景色は、今の彼には心の奥底に、ずん、と重く響くものはあったが、こうなってしまえば、もう来ることもないだろう。  宇宙を旅している時を除いて、新人航海士時代からの長い時間を過ごした、この思い出深い街を目に焼き付けて帰るのも悪くない。……ゲイリーは些かの感傷を込めつつ、そう考えたのだ。
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