18 街角にて胸をよぎる君の面影

3/5
前へ
/119ページ
次へ
 ……その瞬間、彼の心をよぎったのは、あの、ノヴァ・ゼナリャの森のなかで、ひとり本を朗読するニーアの面影に他ならなかった。  床まで達する長い亜麻色の髪、紫の瞳の印象的な眼差し、バラ色の頬に散らばるそばかす、そして形の良いふっくらとした唇から流れ出るよく通る声。  そして、紙の本の頁をゆっくりと捲り、一語一語を噛みしめるように読み上げる、その仕草。  ゲイリーはその記憶に導かれるように、ふらふらと、その古書の山に近づいた。それまで、俯き半分眠っているようだった露店の老人がゲイリーの気配に顔を上げ、そして、にやり、と笑う。 「おお、お客さん、お目が高いね。今じゃこんな紙の本に寄ってくる輩は珍しい」 「……だろうな」  ゲイリーは埃にまみれた古書の山を眺めながら答える。すると、老人はゲイリーが品物に興味があると見込んで、あれやこれやの本を手に取ると、一方的に解説を始めた。 「これは、100年ほど前のシリウス戦役の記録じゃ。そのころの兵士が戦場で綴った手記をもとに発刊されたものじゃよ。ああ、そっちは、140年ほど前のものかな、アルタイル星域で発刊された詩集じゃ。あとこれは……」  ゲイリーは老人の頼んでもいない解説を、多少疎ましく思いながらも、適当に相槌を打ちながら、本の山を一瞥する。その彼の視線が、ふと、一冊の古書に止った。ゲイリーは、はっ、と息を飲んでその本を思わず手に取った。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加