2 不時着するは緑の森

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 ……と、完全に目を閉じ、意識が闇に沈む直前、彼は目の前に、亜麻色の髪をなびかせた美しい少女の姿を見た。 「……君は誰だ、俺を迎えに来た、天使とか云う奴か?」  すると少女はゆっくりと横に首を振った。  ……それが、ゲイリーが己の意識で捉えることのできた、その時分の最後の光景であった。  いったい、いまの少女は? 死ぬ前の幻影ってやつか? ああ神よ、なら、どうせなら、俺には最期に思い出したい奴がいたんだぞ。こんな見知らぬ少女じゃなくて。まったく、最期まで意地悪しやがって。なあ、神様とやら……。  すべてが虚ろになっていく中、ゲイリーの頭の中にはそんな言葉が去来する。だがそれも僅かな瞬間のことであった。ゲイリーはゆっくりと、意識を手放した。がくり、と無精髭の目立つその顎が地に崩れる。  ……だから、その顎に少女がそっと手を差し伸べた感触を、次いで、その手が彼の身体を静かに抱き上げた感覚を、ゲイリーはもはや感じ取りようがなかった。
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