21 ドーナツを囓りながら聞く、君への意外すぎる疑惑

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「マンハッタンの地球政府軍支部にでも連れて行かれると思ったか? まぁ、それでもよかったんだが、生憎な、あそこに行って、万が一小蠅のようなマスコミに捕っては面倒くさいのでな、ここで失礼する。それに、こういう猥雑なところの方が重要な話には適しているものだ」 「あんたの宇宙軍の制服は、ここでは、だいぶん浮いてると思うが」 「まあな。だから、世間話のつもりでのんびり話す振りをしろ、サンダース。……では、聞かせて貰おうか。君がノヴァ・ゼナリャで見聞きした、「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」についての知識を」  リェムはさりげなさを装った口調で、ゲイリーにいきなり本題を切り出した。  ……だが、薄い笑いを口元に浮かべてつつも、その目はもう笑ってはいなかった。 「……では君は、あのノヴァ・ゼナリャのドームの地下室で、「偉大なる開拓者(グレート・パイオニア)号」の開拓史について、これまでの通説に反する日記を見つけた、と。それだけだと言うんだな」 「何度言ったら分かるんだ。本当にそれだけなんだ」  ……空になったコーヒーカップを掌で転がしながらゲイリーは唸った。  既に、店に入ってから一時間半が経過している。コーヒーとドーナツだけで長時間粘る客とばかりに、こちらを睨むウェイトレスの視線が痛い。だが、リェムは構う様子もなく、静かに鋭い眼光でゲイリーを問いただす。 「あのニーアというアンドロイドは、それに関して何も言及しなかったということも本当だな」 「そうだ。本当も何も、俺はニーアにその日記のことは話さなかったんだからな」  何度目かのそのやりとりの後、ようやくゲイリーの言を信じたらしいリェムは不意に黙りこくった。突然訪れた不自然な沈黙に、ゲイリーはかえって落ち着かないものを感じ、思わずリェムに苛々とした声を放った。
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