21 ドーナツを囓りながら聞く、君への意外すぎる疑惑

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 リェムは苦々しげに笑い、どこか投げやりにそう言い放つ。その語尾に重なるように、そのとき、リェムの胸ポケットに入ったテレフォンから着信音が響いた。リェムは素早くモニターに目を通し、やれやれとばかりに首を振り、立ち上がった。 「……ちょうどそのお偉方からの呼び出しだ。今日のところは、ここまでにしておこう、サンダース。また連絡する」  その声に促されるように、ゲイリーも立ち上がる。頭がぼーっとしている。リェムの今日の話が一体なにを意味しているのか、圧倒的に咀嚼が足りない。ゲイリーは心中で独りごちた。  ……ハック疑惑? ニーア、君は一体……? とりあえず、ひとりになって、よく考えねば……。  しかし、リェムが別れ際に放った言葉は、そんなゲイリーの思索に沈む胸中を吹き飛ばすものであった。 「そうだ、サンダース、聴取に応じた礼として、ひとつ良いことを教えてやる……いや、悪いニュースでもあるがな。君の大事な妻、サリーのことだ。君の身辺をマークするついでに、彼女のことも洗わさせて貰った。サリーはまだボストン市内にいる。君のよく知ってる男と一緒にな」 「なに……?」  ゲイリーの心臓の動悸が一挙に高まる。悪い予感に、背中から脂汗が噴き出す気配がする。  果たして、リェムの次の台詞は、ゲイリーのその予感を的中させるに十二分なものであった。 「サンダース、君には気の毒なことだが……その男とはスチュアート・タイラーだ」
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