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22 どいつもこいつも俺を騙しやがって
2日後、早朝着の便で、ゲイリーは再びボストンに降り立った。
彼はもう二度と訪れることはないと思っていた街に、数日と間を置かず舞い戻ったことに内心可笑しさを感じずにもいられなかったが、その笑いを口に浮かべる余裕は、ゲイリーにはなかった。
ゲイリーの頭の中を、リェムの声が木霊する。サリーの相手として、酒を酌み交わしたばかりの知己の名を告げた、あのときの声が。
……なにかの間違いであってくれ……。
彼はスチュアートの家にまっすぐ足を向けつつも、胸中ではそう念じずにはいられない。明け方のひかりが呆けたような顔をして歩を進めるゲイリーの姿を、そしてボストンの街角を照らす。やがて、目的の家が朝靄の中に浮かび上げるのをゲイリーは見た。彼は覚悟を決めて、「スチュアート・タイラー」と表札が掛けられた玄関のベルを鳴らした。
数分のあと、如何にも寝起きという格好のスチュアートが顔をドアから覗かす。だが、その目には困惑と怯えの色が躍っているのをゲイリーは見逃さなかった。
そしてそのときが、彼の中で、疑惑が確信に変わったときであり、ゲイリーの頭から理性が吹き飛んだ瞬間でもあった。彼はスチュアートがなにか言おうとするのも耳を貸さず、怒鳴り声を上げた。
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