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怒りと絶望の余り息が乱れる。手が震える。自分の心臓の鼓動が暴れるように、鼓膜を叩く。
「……畜生、畜生……」
ただ、ただ、そう呟きながら、ゲイリーはどのくらいその姿勢を保っていたのか、自分でも分からなかった。ふるふると小刻みに揺れる銃の照準は、目の前にいる2人の男女を確かに捉え続けていた。
だが、結局、ゲイリーは引金に手を掛けることしかできなかったのだ。
「……畜生! ……畜生!」
ゲイリーの無精髭だらけの頬に、知らぬ間に涙がにじんだ。その雫は顎を伝って、床へとこぼれ落ちる。
そして、彼は、その場に崩れ落ちた。時を同じくして、近隣の住人が呼んだのであろう、パトカーのサイレンの音が彼の耳に響いてくる。
ゲイリーは床に伏したまま、感慨もなくその音を聞いた。
彼の胸にこみ上げるのは、もはや、とめどない虚しさ以外の何ものでも無かった。
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