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 九月の初めの土曜日。  夏休みが終わってもまだまだ厳しい残暑の中、私と三栖君は遅めのランチを終えて、それぞれに本を読んでいた。  ザ・理系の三栖君はこれまであまり小説を読んだことがなかったらしく、私のミステリーコレクションにあっさりとはまった。今は、ちょっと古いけど『検屍官』シリーズを読破中らしい。意外と食にこだわりのある彼のこと、主人公のケイに触発されて、そのうち生地からピザを作りたいとか言い出すかも。  私が開いているのは、昨日買ったばかりの猫が主人公のファンタジーマンガの最新刊だ。  寝室にある南向きのベランダと西向きの出窓、それにキッチンの小窓。うちにあるすべての窓を開けて、ぬるい風を通している。  今日は珍しく、私の部屋で過ごしている。  あのモデルルームのような三栖君の(正確には従兄の)部屋に比べると、ごくごく平凡な一DKの私の部屋。  スペースの都合でソファも置いていないので、私は寝室のベッドの足元で、彼はその斜め前にある本棚の脇で、床に腰を降ろし壁にもたれて、互いに読みたい本を読んでいるわけだけど。 「……!」  ふとベランダの方に目をやって、私は無言で固まった。  風にはためくレースのカーテンのすぐそばの壁に、名前のわからない虫がとまっている。朝、洗濯物を干したときにでも入ったのだろうか。  どうしよう。  恐怖のあまりヤツから視線を外せないまま、なぜかベッドによじ登りつつ、私は脳内で懸命に今後の動きをシミュレートする。
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