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 そっとレースのカーテンと窓の網戸を開け……ああその前に、ヤツをつかむティッシュかなにかを取りにいかないと。  こういうとき、古新聞とかあると便利なんだけどな。揚げ物の油の処理とかにも使えるし。  ていうか、定期購読しようかな、新聞。仕事にも役立つし。とるべきかな、新聞。  ……いや待て。新聞のことは今はいい。逃避してないで現実に戻らなきゃ。  わざわざティッシュでつかまなくても、窓を開けて雑誌かなにかであおいだら、勝手に外に飛んで行ってくれたりしない?  ああでも、ヤツが逆に部屋の中に向かって飛んできたら……。  ベッドの上で膝を抱え、ベランダ方面を凝視している私に、 「どうしたの?」  気づいた三栖君が声を掛けた。 「……虫、が」  小声で、私は問題の壁を指差す。別に大声を出しても、虫は気にしないかもしれないけど。 「はいはい」  よいしょと腰を上げた三栖君が、ティッシュを手にすたすたと問題の地点に近づいた。  無造作に壁の虫をつかむと、ベランダの窓を開け外に逃がしてくれる。  ティッシュを捨てて、私が嫌がらないようちゃんと手を洗って寝室に戻ってきてくれた彼に、 「……ありがとー……」  私は泣きそうな顔で手を合わせ、心からの感謝を捧げた。  虫への対応(を考えること)に気力を持っていかれて、すっかりよれよれの私に、 「……ぷ」  三栖君が吹き出す。 「大丈夫?」  ベッドの前で腰をかがめた彼が、ぽふんと私の頭に手を置いた。 「コーヒーでも淹れましょうか?」  俺んちじゃありませんけど、と笑いかけられて、 「大丈夫、ありがと」  私は遠慮してかぶりを振る。  暑いからホットコーヒーいらないし。  そうだ、そろそろ換気を終えて、窓を閉めてエアコンを入れよう。虫は網戸とガラスの隙間から侵入することもあるんだ。  よろよろとベッドから立ち上がり窓という窓を閉めると、私はエアコンのスイッチを入れる。 「……はー、怖かった」  相変わらずよれよれのままつぶやいてベッドに戻ると、床の上で読書に戻っていた三栖君がくすくす笑った。
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