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 なにげなく、私はベッドの上から彼を見下ろす。  片方の膝を抱えて座った三栖君の、ボタンを三つくらい開けたシャツの衿元から、くっきり浮き出た鎖骨がのぞいている。  文庫本片手に壁にもたれる広い肩と、そこから伸びる長い首。  太ってはいないんだけど。なんか大きいんだよね、三栖君って。全体的に。骨太?  ページをめくる彼を眺めているうちに、 (あ、なんか)  さっき彼に言われたのとはちょっとだけ違う欲求が生まれていることに、私は気づいた。 (アイスコーヒーなら、飲みたいかも……)  どうしよう。  一旦そう思ったら、無性に飲みたくなってきた。アイスコーヒー。  落ち着かない私の様子を察したのか、三栖君がふと視線を上げる。  慌てて私は目をそらした。  たった今、コーヒー淹れましょうか? と尋ねられて断ったばかりだ。 (ホットはいらないけどアイスはほしいって、そんな面倒くさいこと、さすがにちょっと……)  ついさっき虫を外に出してもらったところだし。  それに普段だって、ごはんを作ってもらったり、車で迎えに来てもらったり、あれこれしてもらってるのにこれ以上は。  ていうか、思い返すと全体的にわがままばっかで、そろそろ私、三栖君にあきれられてるんじゃ……。 (やっぱ、自分でやろっと)  なるべくさりげない感じで立ち上がると、私はそっと隣のキッチンに向かう。  三栖君は本に集中しているようだ。 (チャンス!)  今のうちに作ってしまえば、三栖君だって文句は言わずに飲んでくれるだろう、アイスコーヒー。  音を立てないようにケトルに水を入れ、冷凍庫で保管しているコーヒーの粉を出しかけたところで、 「――やっぱ飲むんですか? コーヒー」  背後から低い声がして、私は手にした粉のパックをシンクに落としそうになった。
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