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(あの、これは)
なんだろ? 変形タイプの壁ドン?
「……甘えてくれる子が好きって、俺言ったよね?」
鼻先に迫る、整った顔。
クールな声で問い詰められて、
「……言った、かも」
私は必死で目を泳がせた。
近い! 近いって、三栖君!
顔が熱い。今これ絶対、赤くなってるよね? 私。
てか、ひょっとして面白がってる? 三栖君。
今さらそれくらいで動揺しなくても、って感じかもしれないけど。普段は高い位置にある顔が、急に同じ高さで迫ってくるのって、慣れないっていうか、恥ずかしいっていうか。
そんな私の葛藤にはお構いなしで、
「なるみんさんにも、言われたよね? 俺に甘えろって」
軽く睫毛を伏せた三栖君が、無表情のまま畳み掛けてくる。
「……言われた」
でも、なんでそんなことまで知ってるの? 三栖君。事実すぎて否定はできないけど。
「……やってみ?」
首を傾げた三栖君が、目を眇めた。
(うっ)
真っ黒な瞳に、追い詰められて。
悔しいけど、やるしかない。
「……やっぱ、欲しいです、コーヒー。……アイスで」
俯いたまま、目だけ上げて私はつぶやいた。
「――できんじゃん」
悪そうな目でにっと笑った三栖君に、大きな手で頭を撫でられる。
(……くー!)
慣れた感じが悔しくて、私は両手で頭を押さえるとしゃがみ込み、
「お?」
不意を突かれて目をまるくしている彼の腕の中から抜け出した。
「……好み、うるさいからね?」
「よっしゃ来い」
ケトルの火をつけて、機嫌よくコーヒーの準備を始める三栖君。
数歩離れた場所から、拗ねた顔で私は注文をつける。
「氷いっぱいに、濃いめのコーヒーで。ガムシロないからお湯に溶かしたお砂糖ちょっと入れて、ミルクいっぱいだからね?」
「余裕」
ハミングしながらコーヒーを淹れ始める三栖君。
優しく響く、低くてちょっと掠れた甘い声。
「うー……」
ふらふらと寝室に戻ると、私はベッドの上に倒れ込んだ。
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