14/17
前へ
/179ページ
次へ
(あの、これは)  なんだろ? 変形タイプの壁ドン? 「……甘えてくれる子が好きって、俺言ったよね?」  鼻先に迫る、整った顔。  クールな声で問い詰められて、 「……言った、かも」  私は必死で目を泳がせた。  近い! 近いって、三栖君!  顔が熱い。今これ絶対、赤くなってるよね? 私。  てか、ひょっとして面白がってる? 三栖君。  今さらそれくらいで動揺しなくても、って感じかもしれないけど。普段は高い位置にある顔が、急に同じ高さで迫ってくるのって、慣れないっていうか、恥ずかしいっていうか。  そんな私の葛藤にはお構いなしで、 「なるみんさんにも、言われたよね? 俺に甘えろって」  軽く睫毛を伏せた三栖君が、無表情のまま畳み掛けてくる。 「……言われた」  でも、なんでそんなことまで知ってるの? 三栖君。事実すぎて否定はできないけど。 「……やってみ?」  首を傾げた三栖君が、目を(すが)めた。 (うっ)  真っ黒な瞳に、追い詰められて。  悔しいけど、やるしかない。 「……やっぱ、欲しいです、コーヒー。……アイスで」  俯いたまま、目だけ上げて私はつぶやいた。 「――できんじゃん」  悪そうな目でにっと笑った三栖君に、大きな手で頭を撫でられる。 (……くー!)  慣れた感じが悔しくて、私は両手で頭を押さえるとしゃがみ込み、 「お?」  不意を突かれて目をまるくしている彼の腕の中から抜け出した。 「……好み、うるさいからね?」 「よっしゃ来い」  ケトルの火をつけて、機嫌よくコーヒーの準備を始める三栖君。  数歩離れた場所から、拗ねた顔で私は注文をつける。 「氷いっぱいに、濃いめのコーヒーで。ガムシロないからお湯に溶かしたお砂糖ちょっと入れて、ミルクいっぱいだからね?」 「余裕」  ハミングしながらコーヒーを淹れ始める三栖君。  優しく響く、低くてちょっと掠れた甘い声。 「うー……」  ふらふらと寝室に戻ると、私はベッドの上に倒れ込んだ。
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1169人が本棚に入れています
本棚に追加