1169人が本棚に入れています
本棚に追加
1
九月下旬の、とある休日。
私は東京駅で、もうすぐ出発する東海道新幹線「のぞみ」の指定席に座っていた。
行き先は新大阪。
三栖君には、今日は仕事で会えないと伝えただけで、大阪に行くことは話していない。
勘のいい彼だけど、日帰りだから気づかれる心配はないはずだ。仕事絡みというのは本当のことだし。
発車のベルが鳴った。
ゆっくりと走り出した電車は、すぐにスピードを上げる。
空いた車内で、私はシートを少し倒すとスーツ姿の身体を預けた。
幸い、近くに乗客はいない。
これなら安心して浸れそう。
お別れに。
「……」
目を閉じて、深いためいきをついた。
これから私は、来月大阪で本格始動するイケヤの新しい研究所、いわゆる「発酵センター」に向かう。
――来月から住む、社員住宅の下見のために。
最初のコメントを投稿しよう!