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 九月下旬の、とある休日。  私は東京駅で、もうすぐ出発する東海道新幹線「のぞみ」の指定席に座っていた。  行き先は新大阪。  三栖君には、今日は仕事で会えないと伝えただけで、大阪に行くことは話していない。  勘のいい彼だけど、日帰りだから気づかれる心配はないはずだ。仕事絡みというのは本当のことだし。  発車のベルが鳴った。  ゆっくりと走り出した電車は、すぐにスピードを上げる。  空いた車内で、私はシートを少し倒すとスーツ姿の身体を預けた。  幸い、近くに乗客はいない。  これなら安心して浸れそう。  お別れに。 「……」  目を閉じて、深いためいきをついた。  これから私は、来月大阪で本格始動するイケヤの新しい研究所、いわゆる「発酵センター」に向かう。  ――来月から住む、社員住宅の下見のために。
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