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鵜野課長が太い眉毛を下げて、まるい顔に満面の笑みを浮かべた。
「それに僕、見逃したくないなーって思って。薔子さんの課長代理デビュー」
「……えっ!?」
思いもよらない言葉に、私は思わず大声をあげる。
「あはは。びっくりした?」
やだもう薔子さんったら、お静かにねー、なんてへらへら笑っている課長に、
「ちょ、課長!」
会議室のテーブル越しに私は詰め寄る。
「どういうことですか?!」
「え? どうもなにも、僕とおんなじ昇進だよ? ただの」
きょとんとした顔で答える課長。
「だって、ご存じですよね? うちの代、まだ誰も」
言いかけた私に、
「そうだねー」
あっさりと課長がうなずいた。
「いわゆる、同期のトップってやつ? うんうん、ほんと今まで頑張ってたもんねー、薔子さん」
「いや、ちょっと課長! 私はそんな」
おそれ多いんですけど! 信人や、他にもいる優秀なみんなを差し置いて、同期初の課長代理が自分だなんて、そんな。
「いやー、僕も嬉しいよ」
あごの下で手を組んだ課長が、にやあ、と顔全体で悪い笑みを作った。
「薔子さんはえーと、今年で十二年生か。いやー、同期で一番っていう評価をされた人が僕の部下だなんてねえ。ほんと、この上ない喜びだよ。控えめに言って最高だよねー、大阪で立ち上げる新メンバーに箔も付いて。あ、あっちでは他のメンツもなかなか豪華になる予定だから。お楽しみにね?」
(……こんの、タヌキ親父が~!)
相変わらず食えない鵜野さんに、言いたいことは山ほどあったものの。
「で、返事は? 薔子さん」
たずねられた私は、
「はい、喜んで!」
転勤の打診を、快く受けたのだった。
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