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 走り出した電車の中で、 「……これ」  三栖君が無表情のまま、スマホの画面を私に差し出した。 「――あ」  彼に促されるままのぞき込んで、私は目を見開く。  三栖君の上司、商品事業部管理課長から三栖君あての、転居を伴う異動の打診、いや、確認? のメールだ。  このタイミングだから、異動日は当然十月一日。  異動先は――大阪の新研究所の、研究員?! 「薔子さん、自分のことでいっぱいいっぱいで、気づいてなかったと思うけど」  不機嫌な声で三栖君が言った。 「秋から、俺も転勤なの。大阪」 「……え? なんで?」  ぼうぜんとして私はつぶやく。  大阪に転勤? まだ二年目の三栖君が? それも、研究員で?  ていうか、なんで知ってるの? 私の転勤のこと。 「なるみんさんから聞いて」  私の頭の中を読んだように三栖君が答えた。 「……あ」  一瞬で状況を理解して、私は絶句する。  なるみんが教えたのか。三栖君に。  それならわかる。  私の転勤のことも。今日の電車の、この席のことも。 (……なるみんの、バカー!)  私は心の中で、親友に泣きつく。  よかれと思ってやってくれたことだって、わかってるけど。  なんで勝手に言っちゃったの? 三栖君に。  怒ってるよね? 三栖君。転勤のこと黙ってて。  私、いっぱい考えて決めたのに。縛らないって。三栖君のこと。 (って……あれ?)  気づいて、私はその場で軽く固まる。  でも。  ――三栖君も、大阪?
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