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 そのとき、隣の席から三栖君が私の顔をのぞきこんだ。  表情の読めない端正な顔に、びくっと私の肩が跳ねる。 「……ひとりで解決しようとすんな、って、言ったよね?」  三栖君が目を伏せて、はあ、とためいきをついた。 「試してんの? 俺のこと」  えええええ?! 「ちっ、違う!」  私は慌てて顔の前でぶんぶん手を振る。 「相談しなくてごめん! でもこれは、三栖君とのことじゃなくて、私の仕事のことだから!」 「へー」  三栖君が温度のない目で私を見上げた。 「じゃあ、言えばよかったじゃん。秋から大阪行くことになった、って」 「……それは」  言葉に詰まって、私は目を泳がせる。 「狙ってたよね? 自然消滅」  三栖君が、軽く首を傾げて目を眇めた。 「……」 (やばい! ブリザードが!)  三栖君の背後に白い氷の炎が見えそうで、私は焦る。  怒ってる。あの、過保護で温厚な三栖君が。  焦りすぎて言葉がみつからない私に、 「……だから何度も、『俺に言いたいことない?』って聞いたのに」  ぽつりと言うと、三栖君は窓枠に肘をついて顔をそむけた。 (……そうだったんだ。あのフレーズ)  思い出して、私は目を見開く。 (だって)  彼の後ろ姿に向かって、声に出さずに言った。 (……「待ってる」って、言わせちゃうと思って)  三栖君は優しい。  私が、憧れの「発酵センター」に転勤決まったって言ったら、待っててくれる。きっと。  だけど。 (それじゃあ、私が嫌だから)  束縛したくなかった。この優秀な後輩の未来を。   (……でも、そんな言い訳通じる気がしない)  うつむいた私の耳に、 「……なんかまた、ひとりでいろいろ考えてるっぽいけど」  三栖君の声が届いた。  顔を上げると、隣の席で三栖君が私の方に向き直っている。 (あ、ブリザードやんでる)  ほっとした私の上に、三栖君が爆弾を落とした。 「俺は俺で、好きにやってんのよ? 元々、入社前から希望出してたし。大阪の『発酵センター』行き」
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