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「……えええ?!」
思わず大きな声が出て、私は慌てて口を押さえた。
幸い、周囲の席に人はいない。
「採用のときからそういうことで。あちこち、勉強がてら回らされてたの」
しれっとした顔で三栖君が続けた。
「最初っから東京にいるのは二年以内ってわかってたから、従兄に今の家借りたっていう経緯もあるし」
なにそれ? 採用のときからいろいろ決まってたって。
いくら学生時代の三栖君が優秀だったからって、聞いたこともない特別待遇に頭がついていかない。
(だけど、言われてみれば)
私は、これまでに聞いた彼の仕事の話を思い出す。
食品部の管理課っていうだけでも、まだ現場を知らない新人には荷が重い配属だったはずなのに。さらに、広報課との連携だの、課長の海外出張のお供だの、去年入社したばかりとは思えないくらいあれこれやってたな、三栖君。
そう。まるで、研修みたいに……。
だけど。
「聞いてない!」
自分のことは棚に上げて、私は彼に噛みつく。
「……俺だって、考えてたんだって。それなりに」
三栖君が目を伏せた。
(そっか)
はっとして、私は口を閉じる。
考えてくれてたんだ、三栖君も。
先月の課長からの打診以来、私が悩んでたのと同じように。
……私との、この先のことを。
「でもなるみんさんから、薔子さんも転勤って聞いてさ。やった、一緒じゃん大阪、って、すっげー嬉しくて。これで離れなくて済むって思ったのに」
目を伏せたまま、三栖君が続ける。
「……薔子さんは、俺にはまだ内緒にするつもりらしいって聞いて」
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