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「ねえ、薔子さんさ。どっちがいい?」  しばらくしてようやく通常モードに戻ったらしい三栖君が、いたずらっぽく口角を上げて私の顔をのぞきこんだ。 「何が?」  たずねると、彼が顔の横で長い人差し指を立てる。 「この先、まわりに『ミズ・ミス』って呼ばれて、一生笑われんのと」 (……え?)  突然すぎて、脳内で「ミズ・ミス」という音が「Ms. MISU」に変換されるのに時間がかかった。 「Ms.」=ミズ。  未婚でも既婚でも使える言葉だけど、この場合は多分――。  三栖君が、続けて中指も立てる。  チョキ、あるいはピースにした左手で、 「俺が名字変えて、結果まわりに『奥さんの奥さん』って呼ばれて、やっぱり一生笑われんのと」 (それって……)  ふと見た彼の耳たぶが、ほのかに赤い。 「待って」  どんどん彼のペースで進んでいく話に、私は待ったをかけた。 「……なに?」  いつも通りのしれっとした顔で言う彼に、 「あの。先に、話すことあるよね?」  私は確認する。  あるよね絶対? 名字がどうこう、っていう前に。
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