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3
「ねえ、薔子さんさ。どっちがいい?」
しばらくしてようやく通常モードに戻ったらしい三栖君が、いたずらっぽく口角を上げて私の顔をのぞきこんだ。
「何が?」
たずねると、彼が顔の横で長い人差し指を立てる。
「この先、まわりに『ミズ・ミス』って呼ばれて、一生笑われんのと」
(……え?)
突然すぎて、脳内で「ミズ・ミス」という音が「Ms. MISU」に変換されるのに時間がかかった。
「Ms.」=ミズ。
未婚でも既婚でも使える言葉だけど、この場合は多分――。
三栖君が、続けて中指も立てる。
チョキ、あるいはピースにした左手で、
「俺が名字変えて、結果まわりに『奥さんの奥さん』って呼ばれて、やっぱり一生笑われんのと」
(それって……)
ふと見た彼の耳たぶが、ほのかに赤い。
「待って」
どんどん彼のペースで進んでいく話に、私は待ったをかけた。
「……なに?」
いつも通りのしれっとした顔で言う彼に、
「あの。先に、話すことあるよね?」
私は確認する。
あるよね絶対? 名字がどうこう、っていう前に。
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