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「……話の内容わかってんなら、わざわざ言う必要なくない?」  突き放すようにこたえる三栖君。  冷たく感じるくらいの、クールな目つき。  だけどもう、私は知っている。  これは彼が、とぼけてるときの顔。 「あるよ! あと、なんでその話の返事聞く前に、勝手に二択にしてるかなあ?」  声を張った私に、 「……だって、どうせ言うでしょ? イエスって」  三栖君が半笑いの顔になる。 「そっか……って、違うんだって!」  思わず流されそうになって、 (あっぶな)  私は慌ててかぶりを振った。  それはそうかもしれないけど。違うんだって!  チョキまたはピースの彼の手を両手でつかむと、私はえいっと彼の薬指を立てた。 「違うよ! 私、別姓希望」 「……え?」  左手の指を三本立てさせられて、三栖君がぎょっとした顔になる。  そう、三択。二択じゃなくて。 「だから、自分も相手も、どっちの名字も変えたくないの! 今まで、もし結婚したい相手ができたら、選択的別姓法案が成立するまで事実婚にしようと思ってた。でも」  まくしたてるように私は説明する。 「……あまりにも成立しないから。正直、今は迷ってる」  そう。  結婚という制度については、したいしたくないに加えて、名字のことも引っかかっていて。 「……」  黙って私の話を聞いていた三栖君が、天を仰いで、 「斬新」  くすっと笑った。 「いーよ、事実婚でも俺は。あと、さっきも言った通り、そっちの名字になるのもOK」  首を傾げて、三栖君が私の顔をのぞきこむ。 「……したいとは、思ってくれてたってことでいいんですよね? 結婚。俺と」  からかうように細められた、色っぽい瞳。  至近距離からキラースマイルを浴びて、いい加減慣れているはずなのに私は顔が熱くなる。
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