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「あ、そうだ」  身体をかがめた三栖君が、足元に置いた彼のバッグを開ける。  ちょっとごそごそしたあと、シートに座り直すと、 「はい」  私の顔の前に、小さなブーケを差し出した。  小さな赤いバラで作られた、可憐な花束。 「俺と、結婚してください」  ブーケの奥から私を見つめる真剣な目。  私は驚いて三栖君を見上げた。 「……」  言葉もなくみつめると、目元を赤くした彼が睫毛を伏せる。 (……いいのかな?)  改めて、私は自分に問いかけた。  さっきは、冗談みたいに話が進んじゃったけど。  本当にいいの? この流れに乗っちゃって。  まだつき合い始めたばかりだとか、お互いの年齢とか。きっと彼は、そんなの大丈夫って言ってくれるけど。  でも、本当にいいの? そこまで甘えちゃって。  目の前のこの、差し出された優しい手を、取ってしまってもいいんだろう か。  あまりに甘すぎる展開に、常識という名の自分の声が頭の中でストップをかけるのが聞こえる。  だけど。  ――彼に、(ゆだ)ねてみたら?  同時に、胸のどこかで別の声もして。  ――なにもかも、ひとりで決めようとしないで。ふたりの未来のことなら、まずは彼に差し出してみたら? 自分の、素直な気持ち。  ……そんな、柔らかな声が。  ――彼になら、預けてもいいよね? 私の心。  胸の奥から自然に浮かんできた問いかけに、静かに私はうなずいた。 (――うん)  三栖君になら。 「……いいよ」  私の声に、三栖君が驚いたように目を見開く。
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