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「ありがと。喜んで」  両手でブーケを受け取ると、私は彼の目を見て微笑んだ。 「……はー」  大きく息を吐いて天を仰いだ三栖君が、「よっしゃ!」と小さくガッツポーズする。 「え、そんなに?」  思わず私は笑ってしまう。 「緊張してたの? 今さら?」  実質、さっきOKしたじゃん。名字の話のとき。 「やりたかったの。ちゃんと」  すました顔で三栖君が言った。 「花束受け取ってくれる薔子さんが、見たかったの」  なんだかかわいいことを言った彼が、ついでのように続ける。 「そうだ。東京戻ったら、指輪も選んでほしいんだけど。婚約指輪と結婚指輪」 「え? あ、うん」  嬉しいけど、そういうのこだわるタイプだったんだ? 三栖君。  三栖君が、ちらっと横目でこっちを見た。 「薔子さんって、あんまそういうの気にしなそうだよね」 「うん」  あっさりうなずくと、 「引っ越し前で忙しいのに悪いんだけど……俺が、つけたくて。ペアで」  いきなりキュンとするようなことを言われる。 「そうなの? ああ、アクセサリー好きだもんね、三栖君」  ピアスのことを思い出して私が言うと、 「じゃなくて」  三栖君が真面目な顔になった。 「虫よけ。薔子さんはもう、俺のだからって」 「――は?」  どういう意味?  謎なことを言った彼が、 「そういえば」  首を傾げた私に構わず、思い出したように言い出した。 「大阪の『発酵センター』の管理部長になられる鵜野さんって、薔子さんとこの課長だったよね? この前わざわざ、俺のデスクに来られて」
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