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無言で私と目を見合わせていた三栖君が、
「あ、そうそう。忘れないうちに言っとかなきゃ」
そこでまた話題を変えた。
「なるみんさんから伝言。デビュー決まって、しばらくの間超忙しくなるから、この先なんかあったらもっと俺に頼れって」
……へ?
デビュー?
「三栖君、それって……」
もしや。
「取ったらしいよ? この前のマンガのコンテスト。大賞」
しゃらっと三栖君に言われて、
「……やったー!」
思わず私は両手を上げて叫んだ。
すごい! さすがなるみん!
いつかやれるとは思ってたけど!
イケヤにいた頃からずっと頑張っていた友の姿を思い出し、一瞬で感極まった私の口を、慌てて三栖君が手で覆う。
「ちょ。シー」
反対の手で、焦った顔で唇の前に人差し指を立てる三栖君。
「薔子さん、ここ新幹線」
「ごめんごめん」
声をひそめて謝りながらも、
「あれ? でも、なんで三栖君が先に知ってんの? 私より」
気づいて、私は口をとがらせた。
どういうこと?
長年なるみんのアシスタントをしてきた、この私を差し置いて。
てか、さっきの転勤話や今日の座席のリークもそうだけど。謎に仲よくない? このふたり。
「内緒」
すまして言った三栖君が、とがらせたままの私の唇に、小さな音を立ててキスを落とす。
「!」
だから、新幹線でしょ?! ここ。
目を見開いた私に、三栖君が楽しそうな笑い声をあげた。
途端に無邪気な印象になる、整った顔。
もう、と思いながらも、つられて私も笑ってしまう。
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