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「しょーこさーん、おはようございます!」  エレベーターホールに近づいたところで、いつも通りの元気な声をかけられた。 「おはよ、ほのちゃん」  一昨年建て替えたばかりの、勤務先であるイケヤホールディングスの三十三階建ての自社ビル。  行き先別になった一階エレベーター乗り場、私の職場のある八階を含む「五~十四階用」の列に、同じ課の後輩、松島(まつしま)帆乃花(ほのか)ちゃんが並んでいる。周囲には、彼女の同期の私とも顔見知りの女の子たちも。 (ふふ、かわい)  こなれた感じのワンピースや、A四サイズのバッグ。「オフィスのおしゃれがすっかり身につきました」って感じの華やかな彼女たちに、私は思わず目を細める。  ほのちゃんはたしか、入社五年目。そろそろ中堅だ。仕事に慣れて余裕ができて、結婚する人もちらほら出てくるけど、遊ぶのも楽しい時期だろう。  アルコール飲料からスタートして、食品やサプリメントの製造・販売も手がけるうちの会社では、社員の服装は割と自由だ。中でも、ほのちゃんや私の所属する研究開発部・研究開発支援課は、上にはおるジャケットさえ用意しておけば、基本何を着てもOK。  彼女たちの後ろに並んだ私のそばに、つつっとほのちゃんが寄ってきた。しっかり巻かれた睫毛の下の目が、彼女より低い位置にある私の顔に据えられる。 「あの。薔子(しょうこ)さんって、この前飲料から企画部に行かれた亘理(わたり)さんの同期ですよね?」 「……ああ、うん」  前置きもなく言われて、思わず肩が跳ねそうになった。  今、一番耳にしたくない名前。  内心の動揺を隠してうなずくと、ほのちゃんの背後の女の子たちがざわつくのが目に入った。 「……え、嘘」 「見えなくない?」  小声で言い合いながら、ぎょっとした顔でこちらを見ている彼女たちに、 (……あー、そっか)  私はなんともいえない気持ちになる。
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