好きすぎて

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「さっきお店をキャンセルしたときにスマホで部屋を予約したの。もちろん無理強いはできないし、しない。でも……私の話を聞いて欲しいの。絶対にまりあが嫌がるようなことはしないって約束する」  上茶谷にこんな強い眼差しで何かを求められたことなどこれまでなかった。頬が熱くなる。数秒沈黙したあと、視線を落として小さな声で呟いた。 「私、ホテルに連れ込まれちゃうんですか?」  不思議な間がすとんと二人の間に落ちて。目の前の人が小さくふきだしたから、まりあは顔をあげる。目尻をさげて困ったように微笑んだ瞳にぶつかった。 「連れ込むって人聞きが悪いけど、確かにそうね。私、まりあをホテルに連れ込もうとしてる。……怖い?」 探るように見つめてくる瞳はどこか不安そうに見えたから、まりあは反射的に首を横に振って答える。 「怖くなんてあるわけないです。添い寝だってしたことがあるくらいなんですから」  食事には行かないと駄々をこねたくせに、ホテルにはすぐはいってしまうのはなんだか軽々しい気がして、まりあはつい可愛げのない言い方をしてしまう。それでも上茶谷は緊張感が解けたように良かったと言って微笑む。普段あまり見ることがない、表情の移り変わりにまりあは目を奪われてしまう。 「……初めてだから」 「え?」  自動ドアがあいて、建物の中にはいっていく時に上茶谷が前を向いたまま呟いた。 「こんなに懇願して誰かをホテルに連れ込むなんて、まりあが初めてだって言ったの」  鼓膜をくすぐるように響いたその言葉がまりあの心に溶けていく。繋がれている指先がじくりと微かに痺れた。
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