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言葉は想いに届かない
僕らは幸せになる為に生きている。
生きる事は辛い。生きる事はただただ辛い。ツライ、ツライの連続だ。
だから、僕らはロックの示す道を歩いている。
彼女からは春に一通、夏に一通、秋に一通、冬に一通。
いつ来るかも分からない、来ないかもしれない手紙を待ち続ける日々を、
もう、かれこれ12年間も続けている。
「僕は死にたいとは思わない。もう想わない。もう、そんな年頃でもない。」
僕は毎月、彼女に宛てて手紙や四季の贈り物を贈り続けている。
どうしても声が聴きたい時はメールも送る。けれど彼女から帰ってくるメールは何日か一ヶ月かそれ以上が過ぎてから返ってくる。
今でも僕が出逢ったことがない人たちが使う言葉、絵本の中のような日常の風景を写真を添えて返してくれる。
手紙の内容は眠れない事。不安やパニックで呼吸が出来なくなる事。
家庭菜園の事、猫の事、今でもお姉ちゃんと寝てもらっている事。
どれも12年の人生を賭けて知るには、僕には物足りない。
けれどそれ以上は、彼女から聞くことが出来ない。
実体も掴めないような、生活感の実感が実態が現実的な生々しさが沸かない僕にとっては不思議な言葉が返ってくる。それでも嬉しかった。幸せで、それが救いで、僕の支えだった。それを希望と呼ぶには儚い。夢見るには、夢から冷めるには勇気が僕には無かったのかもしれない。今だから、今更なら何とでも言える。
だから声が聴きたいのですが。聴くこともできないのです。
聴きたい言葉や声が応えが聴けないのです。
一度だけ決死の覚悟で聞いたことがある。
「結婚してるの?」
「結婚はしてません。私は苗字も変ったこともありません。」
「信じてもらえないと思いますが、お姉ちゃんは本当のお姉ちゃんです。私が一人で眠れなくなってから、ずっと一緒に寝ています。」
それだけが返ってきて、それ以降。
怒った彼女からの手紙やメールの返事の頻度は大きく、限りなく減った。
乙女心と言うのを僕は良く理解できない。
「ごめん」「ごめんなさい」
僕は、それ以降、謝る言葉を何度も文章に入れてしまうようになった。
いつになれば僕は救われるのだろう。
いつになれば僕は許されるのだろうかと。
僕の罪は一体何だったのかすら僕自身、忘れて終いかけているのです。
僕が生まれた時の話を一つだけしたい。
僕と彼女が初めて会った時の、最後の会話は。
「もし自分が自分の映画を撮るとして、あなたなら最後に何の曲を流す?エンドロールの事。」
僕は映画にも詳しくないけれど、彼女に気に入ってもらいたくて、必死で考えようとした。その瞬間、ひとつの曲が爆発音のように、擬音に出来ない衝撃である曲が流れた。
その瞬間は頭を後ろからぶん殴られたような。見えている世界が白黒のようなセピア色というのか、灰色がかった世界に変わった気がした。そして、問答無用で頭の中、心、全身にその音が鳴り響いた。
僕は決死の覚悟で「その言葉」を、質問の答えを僕は「切り札」のようにして胸に秘め、そのタイミング、その時、瞬間を狙った。そして時間が数秒流れ。
「エンドロールに流れる挿入歌は、当然、イギーポップファンクラブよね」
それは、僕と彼女の言葉が重なった瞬間だった。
彼女が自然と発した言葉と、僕がタイミングを狙い澄まして放った言葉が、偶然にも彼女の声と同時に重なった瞬間。
それは世界が変わった瞬間だった。だから今の僕が生まれた瞬間だと思って考えて独り言で語り、日々、日常を歩いている。今でも忘れない。
僕の人生は、あの時に始まり、今の「僕」はあの時に生まれたのだと未だに信じている。
信じているという事は疑っている事と紙一重だと僕は思うのだけれど。
僕はこの世界で生きると決めた瞬間から、今の今も、彼女の存在を信じて止まないのです。
人は僕を病んでいると、それを病んでいるという。
人は僕を変わっていると呼ぶ。
勝手にしろと思う時もある。分からない奴には死んだって解らない。
僕はその瞬間を経験できた。
運命と出逢う、運命を掴み感じる才能が、僕のその瞬間その場にはあったのだと。だから、分からないお前らには解ってたまるか、と刺す。
僕は彼女と付き合いたいのではなくて、一緒になりたいのではなくて。
一目、逢いたいのです。
人には解ってもらえないのだけど。
僕は人として、一人の男として、人間として、彼女の存在を確かめたいのです。
一度でいいから一目見て、彼女ともう一度、話がしたいのです。
彼女の本当や彼女の本当の空気を感じたいのです。
もしかしたら、その一度が終わってしまうと、また、ワガママになってしまうのかもしれない。僕は一目だろうが、いつかいつかと想い続けて黙って一方的にでも、それが例え片思いと呼ばれるものだとしても、こうして生きてきた僕は悪なのだろうか。と思い悩み考え続ける人生でした。
「この行為や言動は悪なのだろうか。彼女を傷つける行為になるのだろうか」
それでも、
「ごめん。」
「悪い。」
「申し訳ない。」
「ごめん。許して。」
いくら言葉を綺麗事を並べてたとしても、分かってもらえなくても。
もう今ここ既に、僕の蒼い春に残された、そのロスタイムはとっくに過ぎてしまっているのです。それもとっくに。
「だから、このままでは。僕は、死ぬに死ねないのです。」
生きるにも、生まれ変わるにも、次に繋げて、幸せになる為に、次の一歩踏み出すには、彼女の本当を知りたいのです。
例えそれが解り切っている、僕の望んだ答えでは無いと知っていても。
声が聴きたいのです。
笑われてしまうかもしれないけど。馬鹿にされるのだけど。
誰にも理解されないないのだろうけれど。
これ以上その夢や幸せを、後悔を贖罪を、胸や背中に抱えて、背負い生きていくには、僕はもうその夢や未来、妄想すらも描けない所にいるのです。
あの子と同じ髪型をして、同じ髪色に染め。
あの子が使う言葉を使い。
気が付けば、あの子が好む色に、嫌われないようにと僕は変わっていった。
僕は世界も自分も変えていった。
主観は僕で、道標は彼女だった。そして僕は「僕」になっていった。
あの子はヒロインで、それでいて「アンチテーゼの象徴」でもあった。「眠れる森のお姫様」で、僕とは違う世界に生きているような気もしていた。
だから僕はあの子になりたかったのかもしれない。
過去は、記憶は美化されるもので、それでもぐちゃぐちゃになって消え去る、忘れて終うくらいなら、それは僕にとって、何もなかった事と同じように感じ考えるのです。
だから、目に見えるものでも、形に残るものでも、何か。
言葉が、声がスピーカーや手紙の文字では無く。本当の声が聴きたいのです。
僕らの個性と言う名の病気は進行していく。
いつまでも薄暗い部屋の中で僕らは一人のままだ。孤独死するのは見据えている。どんな死に方するんだろうかと思うと、あまりにも現実的なのか非現実的なのか遠すぎて考える事が出来ないのだけど。
「僕らは幸せにはなれない。」
浴槽に浸かると、湯が冷めきってしまうまで浸かる。
パソコンの液晶バックライトを間接照明のようにして暮らす。
僕は「僕ら」の世界を眺めている。
決して、逃げている訳でも、現実から目を反らして逃げている訳じゃない。
そう信じたいのです。
向井君。
僕はいったい何者で、一体どこから道を間違ってしまったのでしょうか。
向井君。
向井君は僕に「今を生きろ」と叫んだように僕は伝わっているのだけど。
向井君。
僕は、あなたに背中を押してもらった人生を殺してばかりいます。
向井君。
僕はいったい何者で、一体どこから道を間違ってしまったのでしょうか。
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