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「まだ信じてもいいか…?また俺を頼りに行ったのだと……」
彼は幻である彼女を見つめてそう呟くと、勢い良く歩き始めた。
自分はおかしくなったのかもしれないと思った。
それでも、自分はまだ娘を想い続けている。もし本当に自分のせいで彼女を危険に晒しているのなら、自分以外に助けられるものはいないかもしれない。
彼女の両親と婚約者にどう思われようと、拐ったのだと罪を被せられようと…
息が切れ、砂に足が取られ、砂が靴に入り込み、それでも歩き続けた。
『あなた……あなた……』
いつの間にか彼のそばに、あの半透明の、くたびれた姿の娘が、地に膝をついて泣いていた。
「助けたい…お前が困っているなら……俺はここにいるからな…」
触れることも出来ない幻…それでも彼は娘を抱きしめた。
「もう一度だけ…やり直せるか…?」
無情にも、何もない空から砂は落ち続ける。
「頼む……どうか……」
足を止めた彼は落ちる砂を手で掬い、そのまま空を見上げる。
これが彼女の時間なら…
まだ自分が間に合うのなら……
彼の手にある砂は一筋になり、ゆっくりと空へ上っていく。
きっと小さな砂時計なら二、三分の時を報せるほどしか無い。それでも……
『彼に謝りたい…お願い……今度こそ……』
彼女の必死な声が、彼には聞こえた気がした。
気付けば街から離れた道の端で、下を向き地に座り込む、幻と同じ姿の彼女が自分の前にいた。
彼女に怪我はないだろうか?彼女の無事を確かめ、謝罪しなければ…
今度こそ、自分の想いを告げられるだろうか?
彼女の言葉を聞かずに逃げた自分に、
自分の想いからも逃げた自分に、
今度こそ……
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