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トポは父親の言うことなぞ
聞いてはいなかった。
何しろ王子様は、あの赤薔薇の魔女の
恋敵である白薔薇の魔女の子孫なのだ。
赤薔薇の魔女は絶世の美女だと言う。
(その赤薔薇の魔女を押しのけて
当時の王子様と結婚した白薔薇の魔女は
どれだけきれいな人だったんだろう。
その血を受け継ぐ今の王子様はどんなにか
美しい人なのだろう)
トポは、パンを齧りながら
うっとりとそんな事を考えていた。
「おい、トポ。早く食えっ」
父親の怒声にトポは急いで
食事を口へかきこむのだった。
支度を整えたトポと父親は
家を出た。
いつもそうしているように、
父親は籠を背負い
右手に杖を持ち、
左手をトポの肩に乗せて
赤薔薇の森へと向かった。
いつも父親とは無口に進む道を
今日のトポは弾んだ声で
父親に話しかける。
「親父さぁ、王子様ってどんな方
なんだろうね」
「さぁな。目の見えねぇ俺に
分かる訳ないだろ」
「でも、この前の集会で
王子様がお話になったんだろ。
どんなお声だったんだ?」
「さぁなぁ。何しろ雲の上のお方だからな。
緊張しちまって、何も覚えていねぇ。
ただ、赤薔薇の魔女を退治するとか
言ってたな」
「え!退治されたら困るじゃないか」
「そうなんだ。それで村の連中みんなが
今のままでいいと言ったんだが・・・
赤薔薇の森は拡大を続けていて
このままにしておくと国自体が
覆われてしまうと話されてな」
「そ、かぁ。それで王子様自ら
出向いてきたってわけかい」
「そうみてぇだな」
父親とトポは赤薔薇の森への道を
歩きながら話していた。
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