赤薔薇の森の入り口にて

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赤薔薇の森の入り口にて

天幕から出てきた王子を見た瞬間、 トポはハッと息をのんだ。 王子は、腰まで届く長いプラチナの髪 薄い蒼い瞳に白磁のような白い肌。 そして白い軍服をまとっていた。 それは人間ではなくて 一羽の高貴な白鳥のようにトポには思えた。 「王子、近づいてはなりません。 不審者です」 天幕の入り口を守っていた兵隊がそう王子に告げる。 すると王子がふふっと笑って 「どう見ても彼らは赤薔薇の森に入って 薔薇を採取する村人だろう。 大体我々が普段の彼らの通り道を占拠してしまったために どこへ行けばいいのか迷わせてしまっただけだろう。 そうではないのかな」 鈴を転がすような声とはこのようなことを言うのだろうか。 聞いた者は音楽を聴いたような心地を受ける。 「娘、答えろ。王子がおっしゃる通りなのか」 兵隊の声に我に返ったトポは うなずくのが精いっぱいだった。 「ほら、私の言う通りだろう。 すまないね、君達。 驚いただろう。 誰かある。彼らを他の村人達の集団へ 案内せよ」 その声に、一人の兵隊が返事をして トポと父親を追い立てるように 村人達が集まっている場所へと 案内してくれた。 村人達は、王子や兵隊達の天幕の 外れに、粗末な天幕をあてがわれていて その中に皆が入っていた。 どうやら、王子たちの天幕を張るために 赤薔薇の森の入り口近くに村人達が 建てていた小屋は取り壊されたらしいというのが トポと父親の知ったことだった。
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