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「羽住。スマホ見てて」
何の脈絡もない大雅の言葉に、郁はまったく意味がわからなかった。しかし怖いくらい真剣な彼の表情に、黙ってポケットからスマートフォンを取り出す。
ちらりと窺った正面の大雅は、何やら自分のスマートフォンを操作していた。文字入力しているらしい。
「あ、っ……!」
大雅が焦ったように漏らした声に、どうしたのかと尋ねる隙もなかった。小さな着信音とともに、郁の手の中のディスプレイに新着メッセージのサイン。
タップすると……。
『はすみがすきでみてたから』
「……なんで平仮名?」
我ながら気にするのはそこなのかと突っ込みたくなりながらも、言葉が零れてしまう。
「あ、手。手が滑って、変換する前に送信しちゃって、その──」
クラスでも大人びて落ち着いていると評判の大雅の、初めて見る慌てよう。
その姿に、郁は逆に緊張感も去って行くのを感じた。
「石和。こういうの、形に残さない方がいいんじゃないの?」
つい心配が口をついて出てしまう。郁にとって、決して切り捨てられない不安な感情だから。
「なんで?」
きょとんとした大雅に、郁はどう説明すればいいのか、と言い淀んでしまったのだが。
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