トモダチ、以上?

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    *  *  *  夏休みが終わって八木と顔を合わせた時にはまだ、彼を想うと少しだけ胸が痛かった。  大雅には、一切悟らせる気もないけれど。 「終業式の日にも言いましたけど。僕、結婚しましたので」  二学期の始業式の後、クラスでのホームルームの最後に八木が何でもないように淡々と告げる。  郁は彼の言葉を、自分でも理由の見つけられない複雑な気分で聞いていた。  おそらく終業式の日に前川に訊かれなければ、こうして事後報告だけで済ませるつもりだったのだろう。  相手が同じ学校の教師でもない限り、それが普通なのかもしれない。郁は担当の教師が結婚するケースは初めてなので、判断できなかった。 「先生、おめでとー」 「相手はどーいう人ですかぁ?」 「新婚旅行どこ行ったのー?」  教室のあちこちから上がる声に、八木は笑顔でひとつひとつ返して行く。 「ありがとう、みなさん。相手は大学の同級生です。他の学校で先生をしています。二人とも忙しいので、旅行は行っていません」 「え~! 旅行なしとかあるんだ!?」   無邪気な喧騒の中、郁には彼を心から祝福することはまだできなかった。  しかし、虚勢ではなく八木を恨む気持ちもまったくないのだ。  ──言うまでもなく、彼には郁に恨まれる要素など皆無だと理解はしている。  勝手に期待して、勝手に裏切られた気分になって、ひとり相撲もいいところだ。
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