トモダチ、以上?

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「『可愛いな』って、それが切っ掛けではあったんだけどさ。なんか気になって見るようになって。そしたら郁、顔のイメージと違って結構きっぱりしてて、なんでもみんなに合わせるわけじゃないんだよなって。昼休みもひとりで、あーっ、と……」  さすがにここで八木の名を出す気はないらしく、大雅は曖昧に語尾を濁した。  つまり昼休みの準備室でのあの時間も、大雅は知っていたのだ、と郁は今更のように思い至る。 「俺はみんなが思ってるほど大人でも完璧でも全然ないから。顔に出ないだけで、つまんないことでうだうだ悩んだりするし。……郁の方がずっと男前だ」 「男前なんて言われたの初めてだよ。それも大雅みたいな奴に」  嘆く大雅に、郁は正直な感想で返した。彼が意外と悲観的なところがあるらしいのも、もう知っている。 「俺と郁は、逆に見えるけど実は似てるのかもな。どっちも見た目と違うっていうか」 「それを似てるって言うのかはともかく、思ってたよりずっと気が合うのは確かだな」  やけにしみじみと大雅が口にするのに、郁は笑みを浮かべて答えた。  大雅が居なければ、今も家と学校との往復で一日が終わっていた。  しかも理科準備室にも行けるわけもなく、八木との関わりに夢見ていたあの頃の幸せもなく。  以前のように、教室の中で『普通』を演じるだけの窮屈な毎日を送っていたことだろう。
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