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ホームルームが終わり、帰り支度をして教室を出た郁を、廊下で八木が待ち構えていた。
「羽住くん。最近、石和くんと親しくしているようですね。……よかった」
八木に声を掛けられて郁は頷いた。安堵しているらしい彼に、本当に心配してくれていたのだ、と嬉しくなる。
哀しみや寂しさ、ではなく。
今でも郁は、八木のことは好きだ。
ただ、その意味が少し変わって来ている。郁はもう、八木と恋人になりたいとはまったく思っていない自分にようやく気づかされた。
既婚者だからというのとは無関係に、郁にとって八木は「好きな先生」というあるべきポジションに落ち着いた、気がする。
きっと、これでよかった。誰も傷つかない。郁の心にまだ微かに残る痛みも、跡形もなく消してくれるだろう。
今もそっと見守ってくれているらしい、大切なトモダチが。
八木に別れを告げて、郁は廊下の少し先でこちらを気にする素振りで待っていてくれた大雅の元に駆け寄った。
「郁、その、──」
「大丈夫!」
どこか不安そうな表情の大雅の背中を掌で軽く叩いて、郁は作ったものではない、心からの笑顔を向ける。
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