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* * *
今にも眠りに落ちようとするその時、闇を切り裂いて郁を引き留めた光。
もう何もできない、したくない筈なのに、手が勝手に枕元のスタンドに置いたスマートフォンに伸びていた。
メッセージならともかく、こんな深夜に電話を掛けてくる常識知らずの友人はいない。
たった一人、日を重ねる毎に郁の中で存在感を増して行く彼を除いては。
郁はディスプレイに表示される、予想通りの「大雅」の文字の下のボタンを押す。眠気はもうどこかへ行ってしまった。
「よう、大雅。いいけどさ、もうちょっと時間考えろよ」
『ゴメン。寝ようと思ったんだけど、……郁の声、聴きたくて』
スマートフォンを通して耳に届く、大雅の少し甘えるような声。
「……しょーがないなぁ。お前って、ガタイの割に寂しがりだよな」
これはもう、友人同士の会話ではない。よくわかっている。
そろそろはっきりさせた方が、いいのかもしれない。
──闇から連れ出してくれた大雅と二人、手を取り合って陽射しの下へ踏み出す合図は、やはり郁から。
深呼吸して。
「なぁ、大雅。俺さぁ──」
~END~
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