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郁は八木のことが好きだった。誰にも言えない恋をしていた。
恋愛対象が同性であることで、郁はどうしても周りと馴染めない部分がある。
──仲間外れにされたと感じたことはない。そもそも細心の注意を払っているため、周りの誰にも気づかれてはいない自信はあった。
ただ、郁自身が秘密を抱えていることで、過剰に構えてしまっているだけなのだと自覚している。
教室で昼休みに弁当を食べながらの話題は、どうしても恋愛絡みに流れて行く。
男子校で男しかいないため夢見がちになる半面、女子の目や耳を気にする必要がないので遠慮もなくなるからだ。
表面上、話を合わせるだけならさして難しくはなかった。
しかし、こちらの内面に踏み込まれると返す言葉に困る。好みの女の子のタイプ、交際経験から初恋の想い出に至るまで、ありのままに口にはできない。
郁は女性に恋愛感情を抱いたことなどないのだから。
女性を敵視したことはないし、嫌いなわけでもない。友人として好ましいと感じることは当然ある。
だからと言って、ただの好感が特別なものに変わることは決してないのだ。
すべてに適当な『設定』を作り上げて、尤もらしいことを並べるのが、面倒を通り越して苦痛で堪らなくなってしまった。
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