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ある日の四限の授業が終わるなり、郁は弁当を持ってそっと教室を後にした。
もともと郁は、いつも誰かとつるんでいたいわけでも何でもない。それどころか単独行動も苦にならないタイプだ。
どこかひとりになれるところを探して食べよう、とうろついていた際に廊下で八木と顔を合わせたのだ。
「羽住くん、お昼ですか? ……よかったら、準備室で食べて行きませんか?」
郁が手にした弁当包みを見て何らかの事情を察したのか、八木が穏やかな声で誘ってくれた。
「……はい」
突然のことにどうしていいかわからないま、郁は彼について行った。八木は誰もいない理科準備室の、中央のテーブルとくたびれたソファのセットを使うよう郁に促す。
本当に生徒が座っても構わないのだろうか、とおずおずとソファに腰を下ろした郁に、八木はそのまま奥に進んで行って声を掛けて来た。
「僕はこっちの自分の席で食べますから。昼休みは他の先生も来られませんし、何も気にしなくていいんですよ」
「……はぁ」
それでも、気を張っていたのは初めだけだった。
思い切って弁当を開いて食べながら、ぽつぽつと話し掛けると八木がごく普通に返してくれる。その様子に、郁も徐々に平常心を取り戻すことができた。
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