トモダチ、以上?

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 それ以来、郁は毎日とは行かないが昼休みに理科準備室を訪れては弁当を食べるようになった。  常に一人で食事して作業している八木と言葉を交わすのが、密かな楽しみだった。  大きな身体に似合わずなのか、あるいは相応(ふさわ)しく、なのか。  生徒に対しても丁寧な言葉遣いを崩さず、優しく親切な彼。  いつでも柔和な表情を浮かべて、部屋を訪れる郁を温かく迎えてくれる。  クラスでも孤立してはいないが、どこか浮いている郁を気に掛けてくれているのを感じていた。  八木の中での線引きなのか、二人きりで部屋で過ごすことは受け入れても、決して差し向かいで食事することはない。  彼は必ず窓際の自分のデスクで仕出し弁当やパンを食べていた。  食べながら、またそのあと八木は仕事をしながら。とりとめのない話をするのが恒例になっていたのだ。  日に日に彼に惹かれて行く自分に戸惑っていた。この気持ちを認めたら、もう引き返せない気がした。  そう感じた時点で、すでに境界線らしきものなどとうに超えていたのだと郁は思う。
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