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特定の生徒とこういう時間を持つのは、決して褒められたことではないだろう。それでも、郁は八木に訪問を止められたことも、口止めされたこともなかった。
だから。
──八木も自分を想ってくれているのではないか、と淡い期待を抱いてしまった。
けれどもそれは、単なる郁の思い込み、……願望だったということなのか。
結婚することさえ、事前に知らせてはもらえなかった。特別隠していたわけではない筈だ。それは前川への対応からも明白だった。
八木にとって郁は、クラスの受け持ちの生徒の一人に過ぎなかったのだ。その事実を改めて突き付けられた気がした。
彼はあくまでも「教師として」、困難を抱えた生徒のケアをしているという意識でしかなかったのだろう。
郁がそれを、個人的な好意だと勘違いしてしまっただけで。
二人きりの準備室に流れる空気を、郁が特別なものだと思いたかっただけ、なのだ。それが、現実。
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