ある警備員へのインタビュー

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 オカルト雑誌で学校での怪談特集を組むために学校関係者に話を聞いて回ってる?警備員の俺に聞くってなかなかすごいな記者さん。そうだな、じゃあ一つ話に付き合ってもらおうかな。  ある晩俺は月明りすら差し込まない真っ暗闇の中で廊下の見回りをしてたんだ。真夜中の学校というだけで不気味だってのに、頼りになる明かりは懐中電灯一本だけ。もしも何かあったらと考えると気が気じゃなかったな。  正直すぐにでも逃げ出したかったんだけど仕事である以上投げ出すわけにはいかないし大の大人が怖くて仕事逃げましたなんて一生笑われちまう。 他のメンバーと交代できればよかったんだけど、深夜の学校の見回りなんて誰が変わるか。もし居るとしたらそいつは大分物好きなやつか聖人とも呼べるレベルのいい奴のどっちかだろうな。  いくら頭の中で悩もうと文句を言おうと現状は変わらない。  大丈夫、今日の見回りは何事もなく終わるさ。そう自分に言い聞かせ、気合を入れたその時だった。 「先生なんでー?」「あのね今日ねお母さんがね!」  子供の声。それも大勢のだ。こんな夜中に子供がいるわけがない。いやまさかそんなことは。幽霊なんているわけがない。  勘違い、幻聴だと、そう思って別の場所を見回りに行こうと回れ右をする。 「警備員さん、子供たちが教室でお待ちです。お急ぎください。」 ちくしょう。今日はどうしてこんなにもおかしいことが起こるんだ。 行きたくない。進みたくないのに、足が勝手に動く。誰かいないのか、助けてくれ。声すら出なかった。教室の前に立って、扉を開けた。開けちまったんだ。 その瞬間、俺は気を失ったんだ。  目が覚めると教室の机に座らせられていた。相変わらず真っ暗闇で何も見えなかった。でも体は自由に動くみたいだからさっさとここを出ようと立ち上がったんだ。そしたらな、「おじさん遊んでー!」「遊ぼ遊ぼー!」 って廊下で聞こえた声と全く同じ声が聞こえたんだよ。廊下で起こったことは夢や幻覚じゃなかった。しまいにはとうとう本当に気でも狂ったのかおかしなものが見えたんだ。  青い炎。それが俺の周りをぐるぐる回る。まるで遊びをねだる子供みたいにな。  でも不思議と廊下の時みたいな怖さは感じなかった。少しだけならこの教室に残ってもいいんじゃないかと思ったんだ。ほんの少しだけならってな。  はっとしたんだ。こんな恐ろしい場所は一刻も早く離れないといけないって。ぐるぐる回る炎を追い払ってドアに急いだ。  扉を開けようとした時さっきとは違う声がしてドアを開ける手を止めた。 「皆さん、警備員さんはお仕事があるんですよ。皆さんもしっかりお勉強しましょうね。」  女の声がしたんだ。思わず振り返ったよ。体が透けてるってことはこの人も幽霊なんだろうな。子供だと思う青い炎とは違って普通の人間と同じような見た目をしていたもんで、呆気に取られて見つめてたら 「忘れないでください。私達を。」  そう言い残して消えてったんだ。  教室から出れば晴れて、月明りが廊下に差し込んでたよ。  最初に感じた怖さも気づいたらすっかり晴れてたね。  話はこれで終わりだ。使えるようなら使ってくれてかまわないよ。  俺は行くところがあるんでこれで。気を付けて帰ってね。  後日あの学校のことを調べてみると、不審者によって一組のクラスの生徒達と教師一名が殺害された事件があったそうだ。インタビューをしたあの日、警備員の人は花束を抱えていた。 彼がもう夜の警備を怖がることはないだろう。
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