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* * *
かたん。
静寂を破って、耳に届いた音。細く差し込む光。……そして。
「コウちゃん、電気も点けないでどうしたの? そーいう気分?」
──洗面所のドアを開けて、暗い中で入浴している皓士朗に気づいたのか、バスルームの折り戸を無造作に開けた恋人の声。
ここは皓士朗の一人暮らしのマンションなのだ。
咲がドア脇のスイッチを押すと、廊下からの明かりで薄まっていた闇はたちまち霧散する。
つい癖で洗面所の照明も消してしまっていたのだ。
「あー、あのぅ、なんかバチッて暗くなったんです」
のんびりした皓士朗の返事に、咲は瞬時に事情を察したらしい。
「……電球切れたのね。なんでそのまま入ってんのよ、すぐ呼びなさいよ。ストックは?」
「へ?」
咲の問いの意図が掴めず間の抜けた声を出す皓士朗に、彼女の方が困惑しているようだ。
「いや、だから。替えの電球。どこ?」
「電球……?」
「コウちゃん、電球は永久機関じゃないから。消耗品なのよ。……この部屋、他は大体LEDでほとんど交換要らないもんねぇ」
話しながら、咲は洗濯機上の棚にある掃除用のバスブーツを手にしている。これも彼女が買って来てくれたものなのだが。
徐にブーツを履いたかと思うと、咲は無言でバスルームに踏み込んで来て、照明のカバーを外し電球の型を確かめた。
バスタブの湯の中からぼんやりと眺めているだけの皓士朗には構わずに。
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